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高松高等裁判所 昭和32年(ラ)67号 決定 1958年5月28日

抗告人 山内豊三郎

主文

原決定を取消す。

本件競落はこれを許さない。

理由

本件抗告の趣旨及び理由は別紙記載の通りである。

よつて記録につき調査するに、原裁判所は最初、尾崎新一の鑑定評価書(八二丁ないし八五丁)を採つて最低競売価額を定め競売を実施したが(本件は宅地建物のみならず農地十六筆(別表参照)についても競売を実施したのであるが農地については最高価競買人が県知事の競買適格証明書なくして競買の申出をしたものであつた為、競落期日に競落不許の決定があり宅地建物のみにつき同人に対し競落許可決定が言渡されたものである)、許すべき競買価額の申出がなかつた為、最低競売価額を低減し更に期日を定めて新競売を実施したのであるが右低減に際し山内秋雄に命じて鑑定を為さしめその評価書(九六丁ないし九八丁)による最低競売価額を定めたものであることが認められ、而して右二つの評価書中本件建物に関する部分と更に昭和三十一年度土居町長の決定した右建物の固定資産評価額(八丁ないし一一丁中該当部分参照)を比較対照するに

町長の決定は六四二、〇八〇円

尾崎の評価は九三三、〇〇〇円(第一の最低競売価額)

山内の評価は二六〇、〇〇〇円(第二の最低競売価額)

であつて、山内の評価は右固定の資産評価額の五分の二に当りその四〇パーセントに過ぎず、尾崎の評価に比すればその三分の一にも足りない(二八パーセント弱)ことが明らかである。

もとより価額低減に際し新たに鑑定を為さしめると否とは競売裁判所の自由であるが、鑑定を命じた場合にその結果を採用するか否かも亦その選ぶところに委ねられ(最初の最低競売価額の決定が鑑定人の評価に従うべきものとされているのと異なる)、もしその評価にして不相当なる場合には必ずしもこれに従うを要せず、或は更に第三の鑑定を為さしめた上彼此比較考量して新たな価額を決定するを得べく、或は最初の価額を相当と認めてこれを低減せずそのまま維持することも出来るものと解する。

今本件について見るに、第二の最低競売価額は上記の通り課税評価額の二分の一にも充たぬ低額であり第一の最低競売価額の三分の一にも足りないのである。数次の競売を重ねた結果、最低競売価額が漸減され最初の価額の三分の一以下になることはその例に乏しくないけれども、本件の如く一挙に二八パーセントにも足らぬ価額、而も課税評価額よりもはるかに低い価額にまで低減することが果して相当と見うるであろうか。(本件競売物件中宅地及び農地についても山内は殆んどの土地を尾崎の評価額の四分の一以下に評価しているのであるけれども、課税評価額と比較するとき尾崎の評価はその八倍、九倍に当り十倍を超えるものが八筆に及んでいるから、これを四分の一以下に低減しても尚課税評価額を上廻わり(別表16の畑を除く)、殆んどの土地はその二倍前後に当るのである。別表参照)。

当裁判所は本件第二の最低競売価額の決定を不当と認め、結局原決定には法律上の売却条件(最低競売価額)に牴触するものがあり本件競落は許すべきものでないと認めるから、爾余の抗告理由についての判断を省略し、主文の通りに決定する。

(裁判官 山崎寅之助 加藤謙二 白井美則)

価格比較表<省略>

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